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プロジェクト概要
プロジェクト概要

計画の概要

 大学内で発明された知財(シーズ)や企業におけるニーズを元に産学連携をスタートさせても、それが社会のニーズと噛み合なければ大きな成果をあげることはできない。そこで本事業では、本学と産学連携において実績がある企業に加えて、これまでの産学連携には参加していなかった分野の企業やユーザー、地域のステークホルダーにも参加を求め、対話型ワークショップを通して、地域において人々が理想とする「少し先の社会」のニーズを知り、さらにそのニーズから、全く新しいウォンツを発明し、これを大学の研究(シーズ)と結びつける、これまでにない産学連携のプロセスを構築することを目的とした。

 本事業は、米国で開発された共創を生み出すミーティング手法であるフューチャー・サーチをベースにした新しい対話手法を開発することとした。これを活用し、北海道の地域社会、さらには日本社会でより良く機能する未来思考の方法論、相互理解や信頼関係を構築する対話手法になるよう応用、新しい対話の仕組みを開発する。

 人の関わり方の仕組みづくりとして、知的資本経営を元に海外から投資を呼び込むために北欧で開発され、現在ではヨーロッパ各国で、企業やパブリックセクターに広まっているフューチャーセンターの取り組みを北海道に導入する可能性について検討する。その過程で、地方自治体や地域のまちづくり会社、NPOなど連携組織を発掘し、関係性を強化し、大学は各地のフューチャーセンターのハブとしての機能を果たすようにする。

 また、ファシリテーションの講習を実施し、これまで大学や関連団体で活躍してきた産学連携コーディネーターや北海道大学の大学院生に対話の場を創造できるファシリテーター技術を身につけてもらう。

これらの取り組みにより、力強く活動を維持する地域埋め込み型のフューチャーセンターが北海道に根付き、大学と地域経済、地域社会が一体となった、未来思考、デザイン思考の対話をきっかけとする産学連携へと繋がっていくことを目指す。

実施体制

 本事業は本学創成研究機構URA ステーションが中心となり実施する。本学産学連携本部からは産学連携コーディネーター、マネージャーが運営に参画する。また本学創成研究機構研究支援室と連携をとる。

 以上の運営組織から職員がファシリテーターとして参加するほか、本学高等教育推進機構科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)修了生や本学大学院生からファシリテーターを募集し講習会を受講した後、ワークショップに参加する。

 

 さらに、外部機関としてNPO法人Educational Future Center、株式会社道新デジタルメディアなどと連携をとり、さらなる充実を図る。



実施状況

①.イノベーション対話の実施
フューチャーセンターの拠点となる候補地を道内地域より選定した。また、自治体やまちづくり会社、NPOと共同し、未来思考のイノベーション対話手法として、フューチャー・サーチをベースとした対話プログラムを開発し、候補地において実施した。


北海道における主要地域の中から、既にフューチャーセンターのような取り組みを実施した実績を持ち、自治体や地域社会で未来思考の取り組みを始めている地域(札幌・函館・帯広・旭川・北見)と連携を図るための調査を行った。


欧州で開発・発展してきたフューチャーセンターの取り組みがどのように地域に根付き、イノベーション創出に生かされているかについて、オランダ(The Shipyard, LEF future center, Dialogues House)、イギリス(Think Lab.)、フィンランド(ラップランド大学サービスデザインコース,OECDフィンランド統計局,トゥルク大学フューチャーリサーチセンター)、スウェーデン(ストックホルム商科大学日本文化センター,Happiness INDEXのヒアリング)にて調査を行った。


調査地域の中から札幌市、函館市、帯広市の3都市をイノベーション対話のワークショップ開催地として選定した。


選定した多様な特徴と可能性を持った地域において、フューチャー・サーチをベースとした対話手法を用いたワークショップを実施した。

 

②.Webを使った情報提供
1の成果を定着させ、また日本全体でシェアするため、Webおよび動画を使った情報提供を行った。


本事業のWebサイトを構築し、欧州での調査の成果や、イノベーション対話の成果をシーズ・ニーズ創出強化支援事業ウェブサイト「北海道大学フューチャーデザインプロジェクト」(本サイト)にて公開した。


成果発表シンポジウムにおいてはU-STREAMにて中継を配信した。

 

③.ファシリテーター育成
イノベーション対話の実施を支えるファシリテーター育成の仕組みを大学内外に構築することを目的とし、ファシリテーター講習会を開催した。また、学生ファシリテーターを活用したワークショップを実施し、ファシリテーターの育成を行った。


様々な企業や団体で人材育成やチームビルディングのための講習を行い、また地域の課題に対して対話を用いて解決することに取り組んで来たファシリテーターとして、長尾彰氏に協力を依頼し、フューチャーセンターの調査およびフューチャー・サーチをベースとしたイノベーション対話手法の開発を行なった。


フューチャーセンターの取り組みを大学に閉じたものにせず、持続可能なものにしていくために、札幌市役所、函館市役所、帯広市役所等の自治体やまちづくり会社、コワーキングスペースおよびNPO法人等との連携を強化した。さらに、本事業の協力者であり、ファシリテーターの第一人者である長尾彰氏を講師に迎え、ファシリテーション講習を実施した。


北海道大学の大学院カリキュラムや共通科目の演習授業と本事業の連携を図った。当該科目担当教員と協力しファシリテーション講習会へ学生を参加させた。また、本事業のワークショップにおいては、学生をファシリテーターとして配置することにより、実践する機会を与えた。

 

④.地域の「強み・幸せ」を探るための「指標」の作成
ワークショップのアウトカムとして、地域の強みを反映した「しあわせ指標」を各々作成した。また、「しあわせ指標」をベースとして、アクションプランの作成を行った。


OECDや各国が独自に、個々人が自身や社会に対してどのような意識を持って暮らしているかを知る手がかりとして実施している「幸福度調査」を調査、分析を行なった。


地域の対話のテーマは、「地域の強みから考える〜この町の課題と可能性〜
とし、その地域に暮らす人々が、どのような生活を送ってきてどのような生活を望んでおり、どのような可能性を持っているのかを表出させ、地域に潜在する問題を「発明」する(解決するに値する問題そのものを創出する)手法「北大型イノベーション対話」を開発した。


ウ.北海道外(東京)におけるワークショップの開催を当初計画していたが、成果発表シンポジウムを開催し、本事業について外部有識者から評価する機会を設け、作成した「しあわせ指標」を含めた「北大型イノベーション対話」の総合評価を行なった。



一連の取組を通じて得られた知見・課題等

【成果・効果】
 本事業で開発した対話手法である「北大型イノベーション対話」は、各地域の強みを「しあわせ」指標として明示することにより、参加者(ステークホルダー)が未来へのアクションプランを「発明」し、自然にアクションへと繋げるものとなった。その典型例が函館である((2)-②)。函館においては本事業のワークショップがきっかけとなり、フェイスブックにグループが立ち上がり、現在も自発的にイベントを行っている。産学官連携活動において、地域恊働は必須である。地域が自発的に課題解決に向けて活動を行うような効果が見込めたことは、「北大型イノベーション対話」が産学官連携活動に有用であることを示している。
 本事業を通じて札幌・函館・帯広の3地域でワークショップを開催したが、函館がほか2地域のワークショップと異なる最大の点は、1泊2日で「寝食を共にする」唯一のワークショップであったことである。全てのワークショップにおいて、食事を共にする回数が増えれば会話の内容も変化することが顕著に見て取れたが、特に函館のワークショップにおいては、1泊2日という時間の中でワークショップ外の時間の重要さを再認識させられた。初めて会った参加者同士が自らの意見を自由に述べることは容易ではないが、食事や睡眠など生活の全てを共有することにより、自由に意見できる環境を作ることができるということが「北大型イノベーション対話」の最大の特徴となった。
 また、本事業を通じて担当者はイノベーション対話手法のノウハウを蓄積し、産学官連携活動に活かすための学内外の協力体制も確立した。特に、市役所等の自治体、NPO法人との連携により、本事業における成果を還元できる環境を整えることができた。詳細は今後の活動への展望に記載する。

 

【問題点・課題】
 現代社会において、社会人を2日間(1泊2日)拘束することは容易ではない。特に拘束する場合には、土日を使うことになり意欲を持った参加者を集めることはさらに困難を伴う。本事業においては、札幌・函館・帯広の各地域においてコアとなる機関および人物にご協力いただき、ステークホルダーを集めることができたが、対話型ワークショップの実施に当たっての課題となる点である。また、参加者の議論を活発化させるための工夫や誘導等、ファシリテーターの力量に頼る部分も大きい。本事業において完成させた「北大型イノベーション対話」は、産学官連携活動に有用であることは上に示したとおりであるが、ファシリテーターがセットであり、ファシリテーターがその意味を理解した上で利用することが不可欠である。現在、このようなファシリテーターを育成するシステムは確立されていない。本事業で行ったファシリテーション講習会のような講義を大学等教育機関のプログラムに組み込むなどすることが必要である。

今後の活動への展望

 本事業実施期間中において、産学官連携活動に活かすための学内外の協力体制も同時に構築した。このネットワークから成果を評価され、「北大型イノベーション対話」を用いたワークショップの開催依頼が既に数件ある。また、本学COI-Tで計画されているコホート研究を行うための住民との対話に本事業成果の応用する等多種多様なニーズがあがっており、汎用性の高い対話ツールとして認知されていることがわかる。
フューチャーセンター調査での知見は、本学に新たに建設されるフード&メディカルイノベーション国際拠点へ還元され、フューチャーセンターとしての機能を備える建物として計画中である。建物内で研究を行う大学研究者や企業研究者だけでなく、外部機関の利用者、一般市民までが対話の場として利用することが可能となる。


 札幌市やNPO法人と協力し、札幌にフューチャーセンターを作り対話の街にするといったプランも検討されている。「北大型イノベーション対話」と札幌のフューチャーセンター構想を組み合わせることにより、グローバルレベルのMICE都市としての札幌を実現可能なものとする。
さらに、本事業成果はイノベーション人材育成に活用することが可能である。本事業のノウハウを十分に活かした教育プログラムを設計し、今後の大学院教育に組み込むことで、イノベーション人材育成に貢献することが期待できる。